予告編「股旅フットボール」
2008.3.31 Monday
 28日の夜、バーレーンから帰国。マナーマでのアジア3次予選については、結果も内容も大いに不満が残ったが(そういえば試合後、多くのメールをいただきました。有難うございます)、すぐに気持ちを切り替える必要があった。書籍版「股旅フットボール」の締め切りが迫っていたからである。

 29日に束の間の花見を愉しむと、30日と31日は288ページ分の原稿を時間の許す限り推敲して、今日の夜に無事、担当編集者に手渡すことができた。ついに迎えた脱稿の瞬間である。併せて今日、最終的なカバーデザインのサンプルを入手できた。なかなかに素晴らしい出来栄え。ここに満を持して公開することにしたい(皆さんのブログでご紹介いただけるのであれば、幾らでもコピーしていただいて結構だ)。

 さて本書は、前作「ディナモ・フットボール」以来、実に6年ぶりの新作であり、かつ3年間にわたる地域リーグ(すなわち日本の4部リーグ)の取材の総決算である。たかが4部、されど4部。原稿を読み返しながら、あらためて強く感じるのは、日本のサッカーが日本代表と一部の強豪Jクラブだけではないという事実への、純粋なる感謝の気持ちである。

 たとえ将来、日本がワールドカップ出場を逃すことがあったとしても――「今大会うんぬん」という話ではなくても、決して可能性のない話ではないと思うのだが――私はその後について決して不安視することはないだろう。なぜなら日本のサッカー界は、その衝撃に十分耐え得るだけの強靭な足腰を有していると確信するからだ。それだけ日本のサッカー界は、良質なピラミッドを形成しており、それぞれのカテゴリーには多くの優秀な人材と、フットボールを愛して止まない人々が控えている。そのことを、今回の取材では幾度となく思い知らされた。

 私が言わんとすることは、本書を手に取り、ページをめくっていただければ、きっと皆さんにもご理解いただけると思う。書籍版「股旅フットボール」が書店に並ぶのは4月中旬の予定だが、取り急ぎ、予告編としてプロローグの前段をここに紹介しておく。

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いざ「百年構想」の最前線へ――

「股旅フットボール」著者による前口上


 今度の週末、何して過ごそうかな?

 貴方の問いに、私は応える。フットボール観戦なんてどうだろう、と。

 幸い、週末は天気がよさそうだ。ぽかぽかとした陽気の下、サポーターの声援とチャントに無意識に身を揺らしながら、ビール片手でボールの軌跡に一喜一憂する。なかなか悪くない週末の過ごし方だと思うけどな。

 すると貴方は、にわかに表情を曇らせて、こう反論する。

 Jリーグの試合は、こっちではやってないよ。そもそもウチの地元には、J2のクラブさえないんだから。車で何時間もかけて、余所さまの試合をわざわざ観に行く気はしないね。

 ちょっと待ってくれ。私は「J」なんて一言も言っていない。

 確かに貴方の地元に、Jリーグ所属のクラブがないのは紛れもない事実だ。Jのクラブは今年(08年)現在で33チーム。ただし1県1チームというわけではないので(神奈川には4チームもある)、Jがない県は47都道府県中、ほぼ半分の23県もある。だから決して、珍しいことでも恥じ入ることでもない。ただしJリーグ以下のカテゴリー、つまりJFLや地域リーグにまで視線を降ろせば、きっと地元で頑張っているクラブが見つかるはずだ。そうそう、貴方の県にも確か、将来のJリーグ入りを目指している地域リーグのクラブがあるじゃないか。しかも今、結構いい順位にいるはず……。

 すると貴方は、私の言葉が終わらないうちに、こう反駁するはずだ。

 はあ、地域リーグ? それって、上から数えて4部でしょ? そんな下のカテゴリーを観て、いったい何が面白いの?

 いや、これが面白いんです、はっきり言って。

 これまで私はヨーロッパを中心に、さまざまなリーグや国際大会を取材、あるいは観戦してきた。プレミアシップ、セリエA、ブンデスリーガにチャンピオンズリーグ。マイナーどころでは、ロシアやクロアチアやトルコのリーグも観ている。一方で、日本代表はもちろん、ユーロ(欧州選手権)やアジアカップ、ワールドカップといったビッグイヴェントを取材する機会にも恵まれてきた。つまり、一般的なサッカーファンに比べれば、仕事柄、それなりにレヴェルの高いゲームを現場で観てきたという自負はある。そんな私が「面白い」と思えるだけの要素が、この地域リーグにも間違いなく横溢しているのである。

 あらためて考えていただきたい。サッカー、あるいはフットボールの魅力や面白さとは、いったい何に起因するのだろう。ワールドクラスのスター選手? 最先端の戦術と溜息の出るようなテクニック? 巨大なスタジアムを埋め尽くすサポーター? そして彼らが発する熱気と手拍子とチャント? もちろん、それらがフットボールファンを魅了する重要な要素であることは間違いない。だが、フットボールの魅力や面白さとは、果たしてそれだけだろうか。

 代表歴とはまったく無縁のアマチュア選手。プロとは比べるべくもない戦術とテクニック。屋根もなければ座席椅子もないスタジアム。閑散としたスタンドで応援し続けるサポーター。そして彼らが発する、どこかで聴いたような音階のチャント?

 端的にいえば、一般的な地域リーグの光景とは、おおよそこのようなものである。しかし、そんな舞台においても、そしてトップリーグから3つ下のカテゴリーにあっても、フットボールの根源的な愉しみというものは、日本代表やJリーグのそれと基本的に変わるところはない。もちろん、代表クラスのビッグネームや至高のプレーといったものは、このカテゴリーでは望むべくもないだろう。それでも、上質のエンターテイメントと感動を得ることは、地域リーグでも十分に可能だ。いやむしろ、代表やJの試合では絶対に得られない、地域リーグならではの面白さや魅力というものは、確実に存在すると断言できる。<以下略>

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「股旅フットボール」目次

いざ「百年構想」の最前線へ――/「股旅フットボール」著者による前口上
vol.01 イーハトーヴにJクラブを/グルージャ盛岡
vol.02 夢、すなわち目標/V・ファーレン長崎
vol.03 「夢見る時代」の終わりに/ファジアーノ岡山FC
vol.04 加賀百万石のリアル「サカつく」/ツエーゲン金沢
vol.05 瀬戸の海を越えて/カマタマーレ讃岐
vol.06 凛としたクラブを目指して/FC岐阜
vol.07 「人生を懸けた」アマチュアの大会/第30回全国地域リーグ決勝大会
vol.08 群雄割拠の湖国を行く/FC Mi-O びわこ Kusatsu
vol.09 変わりゆく風景の中で/FC町田ゼルビア
vol.10 北の大地で種蒔く人々/ノルブリッツ北海道FC&とかちフェアスカイ ジェネシス
vol.11 「全社」という名のバトル・ロワイヤル/第43回全国社会人サッカー選手権大会
vol.12 「J」の付く場所を求めて/第31回全国地域リーグ決勝大会
「謀反の物語」/「股旅フットボール」あとがきに代えて

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以上
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